「事件は現場で起きている。」踊る大捜査線の名ゼリフです。Web上のクリエイティブは、ハウツー的に表層をさらっても、背景としてプロジェクト全体を支えている広がりは見えてきません。現場で、起きている事柄の総体をつかむことが必要です。Webプロジェクトは、アプリケーションの専門性もあって、さらに印刷や映像といったクリエイティブとも性質が違うことが、全体像を一層わかりにくくしています。この実態を知るためには、実際にお客さまとWebインテグレータがどのように考え、どのようなゴールを設定し、どのような知恵を盛り込んで構築していったのか、その現場を見ることが必須です。
プロジェクトのスタートは何から始まる?
僕たちが一番始めにすることは、お客さまと一緒に「ワクワクして夢のある目標(目的)」を作ることです。これが共有できていないと、すべての関係者が前向きに関わっていけなくなってしまいます。僕たちWebインテグレータはもちろん、お客さま側も判断する指針が欲しいはずです。お客さま側の社内意見が複数出てきた場合も、この目的と整合性が取れている方を選択していくことができます。僕たちが提案をする際も、この目的と整合性が取れるという観点に則って、自信を持って提案をすることができます。
本来は、経営陣が会社の経営ビジョンとリンクさせてWeb戦略を構築することがベストです。なぜならWeb戦略は、マーケット(市場)と企業がコミュニケーションを取る際の、大事な核となる部分を内包しているからです。自社の製品作りにこだわらないメーカーはいないでしょう。それは、企業とその顧客の接点である製品の良し悪しが、先々の発展を決めてしまうことをわかっているからです。これと同様に、企業とその顧客の接点であるWebプロジェクトにも、全力を注ぐことが大切です。
Webは「金の斧 銀の斧」
だから、経営的視点・権限を持たない担当者様だけにすべてのタスクを任せてしまうのは、非常に危険なジャッジになります。逆に言えば、Webプロジェクトの場合、経営的視点・権限を担当者様に与える必要があるのです。企業全体と顧客の関係づくりという大切な仕事を、一部の社員に任せてしまって経営陣が判断に加わらないことは、企業にとって大きなリスクを生んでしまいます。
その理由は、Web上で企業イメージがひとり歩きし、自社が伝えたいメッセージ以外の情報を拡散していく可能性が高いからです。ユーザ(顧客)との接点であるWebで、今まさにユーザ(顧客)は企業の実態をつぶさに見ているのです。今まで明らかにならなかった真実も、ユーザ(顧客)は手に入れようと躍起になって探しています。ユーザ(顧客)は、真実に飢えています。最近で一番特徴的な例は、原発に関することがわかりやすい事例ではないでしょうか。真実を話さないと、すべての斧を失くしてしまうこともあり得ます。
そうです、「事件は現場で起きているのです!」
メディアによる特性を理解することが、最初のハードル
まず、最初に越えなければならないハードルとして、Webのメディア特性をお客さまに理解してもらわなければなりません。Webは、Pull型メディアです。テレビやラジオのように一方的に情報発信をするメディアではなく、新聞や雑誌のように漫然とページをパラパラめくるような情報接触でもありません。Webマガジンのように、従来の雑誌形態を取っているWebサイトも、一番最初は何らかの訪問動機となる情報を見に来て、そこからリピートし、他に何か情報がないかを探しに行くことになります。
リピートとザッピングの違い
昨今では、ザッピングという考え方をWebに持ち込んでいる広告代理店様もいらっしゃいますが、基本的にそういうメディアではありません。「スーツ 〇〇」と検索してきたユーザが、なんとなく靴下のページを見に行って靴下の情報だけ持って帰るのは、不自然な行動です。おそらく欲しいスーツの情報がなかったから、不満な気持ちを持ってWebサイトを離脱しているのでしょう。魚を買いに商店街へ行って、となりの八百屋でキャベツだけ買って帰る主婦はいるでしょうか?今日の献立が別のものになってしまいます。さらには、料理が成り立たないかもしれません。きっと、その主婦は品揃えの悪い魚屋に不満を持つはずです。テレビ業界では当たり前の考え方であるザッピングという行為は、Webサイトというメディアではリピート訪問という行為に紐付く第2アクションなのです。このように、当たり前だと思われるメディア特性への理解は、意外と置き去りにされていることも多いのです。
Webは立体的なコミュニケーション
本来、Webサイトのプロデュースは、事業計画を受けてプロジェクト設計することから始まります。Webサイトの特性として、ユーザはWebサイトそのものを「生き物」のように感じています。つまり、Webサイトにキャラクターを感じるわけです。それは、コンテンツが更新され生の声を感じるリアルタイム性やインタラクティブ性、校閲を経ずに公開される書き口によるものだと思います。それゆえ、レガシーメディアである、4マス(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)では、これまで「コミュニケーション」という言葉が出てこなかったのだと思います。しかし、Webはこの「コミュケーション」を何よりも念頭におかないといけない点が特徴です。何気なく見ているWebサイトの向こう側には、様々な情報量や人の関わり、複雑な仕組み、巨大なインフラ等のバックエンドなど、たくさんの要素が存在しています。
過去において、企業が生活者とコミュニケーションを取る方法は、一部の人との対人コミュニケーションが中心でした。しかし、現在はWebを通じて世界中へ発信されています。そして、その発信した情報はずっと残るのです。もし主張がブレていれば、ブレた主張をする企業であることが、半永久的に残るのです。そして、よーくWebサイトを見てみれば社風も忠実に出ています。数々のプロジェクトに参加してきた僕たちは、プロジェクトの完了時に、出来上がったWebサイトとそこまでの経緯を振り返ってきました。そして、いつもそう思うのです。
サイトの目的から考えなおそう!
企業のリソースをマーケットにフィットさせる
Web戦略とは、Webサイトの顔作りを意味するものではありません。企業が持つ様々なリソース(資産)をいかにマーケット(市場)にフィットさせていくか。そのためには、どのようにWeb上でのコミュニケーションをしていくべきなのか。経営戦略的な視点から、多面的に考察しなければなりません。経営機能、人財、メディア、顧客接点となるチャネルの連係、等々の複数の要素を同時に検討する必要があります。事業を行なっているマーケット(市場)とそこでの顧客接点を一元的に捉え、企業のリソース(資産)をマーケット(市場)にフィットさせる。その指針となるものがWeb戦略です。
ミクロな作業が企業資産を最大化する
Webサイトのリニューアルは、経営戦略から鑑みて、どのようにWebを活用するべきかを見直すことです。私たちは、いつも下記のとおりにこのフェーズを進めます。
- すでに存在しているサイトの中身をすべて調査し、どういう目的で使われているかを分析。
- 企業全体の視点から、訴求したいターゲットを想定。
- ユーザ(顧客)のモチベーション(動機づけ)に沿ったコンテクスト(脈絡)に照らし合わせ、欠落しているコンテンツや機能などを洗い出す。
- それらの抜け落ちている部分をカタチにし、どう演出し活用していくかを議論する。
こういった全社的な視点からWebの活用を考えることは、企業が提供可能なリソース(資産)と細分化されたマーケット(市場)のニーズをミクロにつなぎ合わせる、接点(インターフェイス)を考えることでもあります。
だから、グランフェアズは設計を重要視しているし、企画から設計までが一貫している提案にこだわっているのです。それが、効果を出す為に最も重要なポイントだと考えているからです。
Homeページがないのはホームレス??
もう、「Homeページがないのはホームレスですよ」とか言われて、「じゃあ、立ち上げないと恥ずかしいねー。」みたいなやり取りをする段階は、おおむねの企業様では過ぎているはずです。では、何の為にサイトを持っているか?を、自社のサイトに問いかけてみてください。すぐに答えは出ますでしょうか?ちなみに、弊社のサイトはリニューアルするまで、Homeページしかありませんでした。1ページです!!医者の不養生ってヤツですね。。。 でも、その当時には優先順位があって、それでよしとしていました。当時は、まだ僕たちのことを知る人もあまり多くない状況でした。そういったことから、出会った人が後で自社サイトを確認した際に、実績を知ってもらうことだけに目的を絞っていました。ただ、ワクワクはしないサイトでした。
何のためにWebサイトを持っているのか
誰にでも見られてしまう。すべて見られてしまう。それがWebです。本来当たり前のことですが、このことを再認識すべきです。レガシーメディアでは、「こう見られたい」「これだけ伝えたい」という企業様側の意識を強く反映することができました。しかし、Webは違います。ユーザの意識によってPullされるメディアですから、同時に多くのことを知られてしまいます。ですから、経営スタンスと総合力を鏡のように映し出すものとして存在しているという認識のもとで、「何の為にWebサイトを持っているのか?」を明快に示していくべきなのです。
手入れされないWebはマイナスを生み出すことも。。。
そういった意味では、グランフェアズのサイトは、自社サイトを構築することができないほどの企業体質の弱さだということを表していました。私たちもそうであったように、企業にはそれぞれ事情もあって、コンテンツがばっちり揃い、ユーザビリティも充分検討された、クリエイティブでブランディングされたサイトを構築するのは、とても難しいことです。現状の企業体制・風土では、なかなかそこまで踏み込めない大手企業さんもいらっしゃいます。場合によっては、サイトを無くすことが最適解な場合もあります。1年間全く更新されていないサイトをユーザはどう思うでしょうか?忙しいのだなー、と好意的に思ってもらえる場合もあるでしょうが、ほとんどの場合、この企業がきちんと事業を行なっているのか心配になるでしょう。さらには、企業自体が存続していないのではないか、と思うのではないでしょうか。実際に、有形無実化しているサイトもたくさんあります。このように、やみくもにWebサイトを持つことは、コストをかけてマイナスなイメージを強調することになりかねません。
Webも企業のリソース(資産)です。
Webは企業の資産です。会計上においても、文字通り資産として計上されるものです。だから、コツコツとでもその資産を増やしていけば、どんどんとその資産は大きくなっていきます。机上で評論しているよりも、できることから始めるべきだと思います。それは、大企業でも小規模な事業体でも同じです。この記事で書いていることは、決して大企業だけの話ではありません。Web上ではスケールメリットが小さくなり、物理的な優位差が縮まってしまいます。1000人の百貨店と10人の商店では、通常では1000人の百貨店に優位性があります。しかし、10人の商店が運営する通販サイトが、1000人の百貨店が運営する通販サイトより大きな売上を上げることは、起こりえることです。
構築作業は、プロジェクトの2割にすぎない
すべてのプロジェクトにおいて、スタートフェーズでしっかり方向性を考えることは、共通して重要なタスクです。これがプロジェクトの成否を決定してしまうくらい重要です。この段階で、お客さまもWebインテグレータも、とことん意見を交わし合うことが理想です。Webインテグレータは、なぜこういう提案をするのかをわかりやすく説明すべきですし、お客さまは、なぜこういったことをしたいのかを社外の人間にもわかる言葉で提示するべきだと思います。
ここで重要なのは、「Webサイトを使ってどのようにビジネス展開をするか」をきちんと組み立てることです。ここが盤石であって、初めて成功するWebプロジェクトが生まれるのです。プロジェクトにかけるコスト配分も、ここに予算をきちんと割くべきです。お客さまとWebインテグレータの意思統一がきちんと図られていないと、仕様変更やプロジェクトの振り戻しが頻繁に起こり、いつまで経ってもWebサイトが完成しないという自体が発生します。最悪の場合、まったく役に立たないWebサイトが出来上がることもあります。
そして、このフェーズはWebインテグレータ側だけが担当するものではありません。Webサイトで展開するのは、お客さまのビジネスです。Webサイトは、自分たちの商品を売り、サービスをするところなのです。これを忘れないように、お客さまにもご理解をいただく必要があります。Webインテグレータの役割は、お客さまの抱える課題ややりたいことを整理し、Webで何をすべきかを導き出せるようにサポートしていくことです。お客さまにその気になってもらい、真剣にWebサイトでビジネスをする体制を整えるもらえるよう、リードすることなのです。